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甲府地方裁判所都留支部 平成3年(ワ)1号 判決 1997年3月28日

原告

江原史郎

被告

(旧名称学校法人西東京科学大学)学校法人帝京科学大学

右代表者代表理事

沖永洋子

右訴訟代理人弁護士

瀧川円珠

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

(申立て)

原告は、「原告が被告の教員たる地位にあることを確認する。その地位における給与等の雇用条件は、平成元年三月一七日原告に送付されてきた「職名、俸給月額、扶養手当、住宅手当」等の条件が記載された事務連絡書に定められた基準に則ったものであることを確認する。被告は原告に対し、合計金一億六一一六万七六六〇円の支払いをせよ。被告は原告に対し、名誉毀損に対する原状回復のための謝罪文の交付をせよ」等の趣旨の、及び原告と被告との間の雇用条件等の確認等を求める旨の判決を求め、被告は、請求棄却の判決を求めた。

(事案の概要)

一1  原告(昭和八年一一月三〇日生)は、昭和三二年三月東京工業大学を卒業して同年四月に日本放送協会(以下「NHK」という)に就職した。そして技術関係の仕事に従事していたが、昭和四九年六月には東京工業大学工学博士の資格を取得し、昭和五九年七月からは放送技術研究所の音響聴覚研究部主任研究員を勤めていたものである。

原告は、平成五年一一月三〇日、NHKを定年退職し、平成八年四月一日からトランスコミュニケーションズ株式会社に勤務して現在に至っている。

2  原告は、NHKに在職中の昭和六三年ころ、平成二年四月に開校予定の学校法人西東京科学大学(以下、その設立準備段階を含めて「被告大学」という)の設立準備委員会から理工学部電子・情報学科専任教員への就任(但し、平成三年四月一日から勤務)の要請があったことからこれを承諾した。

3  その後、被告大学の設立許可取得へ向けて、各学部の学科の具体的教科の確定、その講義内容の調整、教育研究のための設備の購入、図書の選定等の検討のための準備会合が、原告を含む教員就任予定者を集めてなされた。その中で、原告が被告大学に対し給与等の経済的待遇に関する要望を出したり、原告の担当教科の変更を被告大学側が求めたりしたことと、電子情報学科内部における原告への設備費用等の割り振り額等を巡って原告と被告大学との間に次第に対立を生じた。

4  右に起因して、被告大学は、平成二年一〇月、原告への教員就任要請をその不適格を理由に取り消すとしたことから、これを争う原告との間に紛争を生じたのが本件である。

5  なお、被告大学は、平成八年四月に学校法人西東京科学大学から学校法人帝京科学大学にその名称が変更された。

二  本件事案の事実経過等の大要は次のとおりである。

1  昭和六三年一月初旬ころ、原告は、東京工業大学の高橋清教授(以下「訴外高橋」という)から理工系新設大学への専任教員(教授)への就任の意向の打診を非公式に受けた後、NHK放送技術研究所次長を介して正式にその申入れを受けた。

2  そして、昭和六三年二月二三日前ころには、原告は、訴外高橋と面接して、原告の現在の勤務状況等の説明をし、また、大学の設置場所は山梨県北都留郡上野原町である等の説明を受けた。そしてその後、東京工業大学記念会館で、被告大学の理工学部長への就任が予定されていた訴外宗宮重行(以下「訴外宗宮」という)から被告大学設立の趣旨と経緯の説明を受け、次いで同年三月ころには被告大学への提出書類についての説明等を受けた。

3  原告は、昭和六三年三月、右説明に従って原告の個人調書、履歴書、職務調書等を被告大学に提出した。また、同年九月二八日には「居住用宿舎の希望について」と題する書面を提出した他、同年一二月下旬には、被告大学の設立準備に携わっている者の懇親会に出席した。そして、平成元年二月二八日には原告の教育研究業績書及び職務調査書等を提出した。

4  原告は、平成元年三月一七日、設立準備室室長大塚喬から、「職名、俸給月額、扶養手当、住宅手当」等の雇用条件が記録された「事務連絡書」(書証略)(以下「本件連絡書」という)(教授・予定月額給与金五一万四六〇〇円)を受領した。

5  原告は、平成元年四月二八日、「平成三年四月一日から、被告大学理工学部電子・情報学科専任教員」就任承諾書(以下「第二次就任承諾書」という)(教科は、計算機言語学、信号処理、組み合わせ・アルゴリズム理論、卒業研究担当の五教科)を提出した。

6  原告は、平成元年四月二八日 第一回学科会議に出席した(書証略)。

7  原告は、被告大学から、平成元年八月八日、決定した原告の担当授業と、その授業時間割表の送付を受けた(書証略)。そして、同月一〇日には、その担当科目についての講義要項についての執筆依頼(書証略)を受けた。

8  しかし原告は、平成元年一〇月中旬ころ、訴外高橋から電話で、「原告の担当授業科目に追加の必要が生じたので、その旨の就任承諾書(以下「第三次就任承諾書」という)に押印して返送して欲しい」との依頼を受けた。

そしてその頃、原告は被告大学から、第二次就任承諾書に二科目の追加(計算機言語学、電子情報数学、組合せ・アルゴリズム理論、確率統計論、信号処理、卒業研究担当の合計七科目)をする旨の書面(書証略)の送付を受けた。

しかし、原告は、右要請どおりには第三次就任承諾書を提出しなかった。

9  原告は、平成元年一二月二日、被告大学の現地視察会に参加した。

10  被告大学は、平成元年一二月二二日、文部省から電子・情報科学科の設置認可を受けた。原告は、平成二年一月一二日、被告大学学長の訴外斉藤進六から担当授業の開始準備命令を受けた。

11  原告は、平成二年一月二六日に招集された第七回準備会において、希望購入図書選定リストを提出するよう要請された。

12  原告は、平成二年二月一七日、訴外高橋から教授就任の辞退を非公式に求められた。次いで、同年七月五日には、訴外宗宮と訴外高橋からさらに右辞退の説得を受けた。

13  そこで原告は、平成二年八月二三日 清水三郎弁護士を代理人として、被告大学に対して原告の意見を記載した履行請求通知(書証略)を送付した。

14  被告大学は、平成二年九月三日、原告に対し、正式に教授就任辞退勧告(於けるNHK)をし、同月二五日付けで「就任辞退勧告書」(書証略)を送付し、さらに、同年一〇月六日には内容証明郵便で「就任依頼予定取消通知書」(書証略)を送った。

15  これに対して原告は、平成二年一〇月八日、都留簡易裁判所に民事調停の申立てをしたが、同年一二月二五日それを取り下げ、本件訴えを提起した。

(争点)

一  原告の主張

1(一)  原告と被告との間の労働契約(以下「本件契約」という)は、平成元年四月二八日、原告が被告大学の要請に応えて、それ以前に提出していた第一次就任承諾書に換えて、第二次就任承諾書を提出した時点で締結された。

そして、その主要な内容である原告の被告大学における担当教科は、同承諾書に示された計算機言語学、信号処理、組み合わせ・アルゴリズム理論、卒業研究担当の五教科に限定されて確定された。

(二)  また、原告に対する同契約に基づく給与等は、平成元年三月一七日、原告に送付されてきた「職名、俸給月額、扶養手当、住宅手当」等の雇用条件が記載された本件連絡書(書証略)に基づき定められ、またその金額はその基準に則って毎年改訂されていくものである。

(三)  従って、被告大学においては、前記のとおり確定された本件契約内容を原告の承諾なしには変更できないものである。しかし、被告大学は、第三次就任承諾書の提出を一方的に求め、その中で担当教科の増加を原告に強いる等し、その過程で原告の名誉を毀損した。また、本件契約につき何らの解除の手続も取らずに、その後理由もなく本件契約は解除されていると不法に主張しているものである。

なお、原告は被告大学の求める第三次就任承諾書の提出を明確に拒絶したことはない。

2  NHKにおいては、その定年は六〇才であるが、その年齢に達する以前に早期退職を選択できる選択退職制度があり、それを選択すると加算退職金制度が適用される。原告が早期退職の選択ができる期限は、平成二年一〇月末日であった。

原告は、被告大学との本件紛争により、NHKの右早期退職制度を利用することができなかったため、その加算退職金の支給を受けることができなかった。

3  原告は、被告大学に対し、本件紛争による不法行為に基づく損害賠償請求権及び給与の不払い等による次の内訳による合計金一億六一一六万七六六〇円の金銭支払い請求権、並びに被告大学の名誉の毀損行為に起因する現状回復請求権を取得した。

(一) 全経過

慰謝料金三〇〇五万円

(二) 大学設置準備作業

著作権料分金五万円

(三) 契約不履行違法通知

加算退職金分金九四六万一六〇〇円

NHK年金分金八三九万五〇二〇円

普通退職金利息金二九五万円

未払賃金金九〇四三万七二〇〇円

(四) 契約不履行

逸失利益金一四四〇万円

研究教育能力維持開発費金 二四七万三八四〇円

社会保険の雇用者負担分金二一六万円

(五) 将来請求

将来賃金金七九万円

4  よって、原告は被告に対し、申立て欄記載のとおりの請求をする。

二  被告大学の主張

1  被告大学の設立準備室は、「大学の設置等の認可の申請手続等に関する規則」による規定から、平成二年四月の大学開設の前々年度(昭和六三年度)の七月三一日までに大学設置のための申請を文部大臣にすることを要するため、昭和六二年八月に正式に開設された。

2  大学新設のための申請手続については、二年間にわたる文部省当局の審査を受けなければならない。

(一) 第一次審査としては、大学の基本構想、財産関係等が審査される。そのため昭和六三年春までにその内容が確定される必要があった。そして、教員についても、教授、助教授、講師等の人数、経歴、年齢等の人的構成の全体が適当であるかが審査されるので、それまでに学科毎に教育内容の検討のための打ち合わせと、教員候補の選定等が行なわれる必要があった。

(二) 第二次審査は平成元年秋に行われるが、そこでは主として教員個人の研究実績等からみて当該教員が予定担当科目の担当が適切であるかが審査されるので、それまでにそれに対する準備と事前指導等に対処する措置を講じる必要があった。

(三) 教員の就任承諾書は、二次審査で必要とされる大学設置認可申請の添附書類(担当科目名を要す)であるが、一次審査の段階からこれの提出を受けて予め科目構成等の内容について文部省の事前指導を受け、それに従って担当科目等を変更していくこととされていた。就任承諾書を提出した者でも途中辞退する者も多いのが実情であった。

なお、現職の定年退職後に就任を予定していた者には、その「定年規定」を、また、定年前の者には「所属長の承諾書」の提出を求めた。

3(一)  被告大学は、訴外高橋の推薦で原告を教員予定者とし、担当予定授業科目は「電波法法規、電気通信事業法、情報認識論、情報科学、組合せ理論、計算機言語学、情報処理実習、卒業研究」の八科目として、第一次就任承諾書の提出を受けた。

(二)  しかし、事前折衝の段階で文部省から電子情報科学科には「理学的色彩を盛込むとともに、履修指導につき配慮せよ」との事前指導を受けたことから、同学科の科目変更等を行った。そのため原告の担当科目の変更が必要となったことから、原告に第一次就任承諾書を返還して、改めて第二次就任承諾書の提出を受けた。

なお、被告大学は、平成元年三月一七日、原告を含む全教員候補に給与予定額通知(書証略)を送付した。その内容は国立大学に準じるものであったが、原告は、NHKの現給与に比べてその金額が低く不満であるとしていた。

(三)  そして、平成元年秋の前記第二次審査に臨んだところ、さらに科目構成等の変更の必要があるとされたため、大学全体で二一名の、その内電子情報学科は六名の教員候補者の担当科目の変更等の措置を講じる必要が生じた。また、その変更については、同年一一月二日までに補正申請書の提出が要求された。

(四)  そこで、被告大学は、これに対処するため、右二一名全員に担当科目等の変更等を内容とする第三次就任承諾書の提出を求めることとした。そして、原告は、一般的には週六コマから八コマ程度に上る平均授業担当時間に比べてこれが少なかったので、その増加(二科目増加、授業については週二・五コマから三・五コマへ増加)を求めることとした。

その結果、平成元年一〇月末までに、原告を除く右全員からその旨の就任承諾書の提出を受けた。

(五)  被告大学は、原告に対しては、平成元年一〇月一八日付けで第三次就任承諾書の提出を求めたが、原告は、その許否を明言しないまま、これに代えて被告大学に対し、「NHKの現給保障(俸給月額表の改訂)」「勤務を平成二年四月からとする(就任年度の繰り上げ)」の要求(書証略)をし、さらに同年一〇月末頃には、現職給与保証の理事長の署名と印鑑登録証明書の交付を要求(書証略)した。

(六)  そこで被告大学は原告の右要求には応じられないとしたところ、原告の理解を得られたものと感じられた。そこで、被告大学は、平成元年一〇月末日ころ、担当者をして原告を勤め先のNHKに訪れさせ、第三次就任承諾書の提出を求めた。しかし、原告は、再び給与水準等の問題を蒸し返して原告の前記要求に固執し、席を外して担当者を待たせたままにし、第三次就任承諾書の提出の許否について明確な回答をしないままの態度をとった。

(七)  そのため被告大学は、前記補正期限である平成元年一一月二日が迫ったので、已むを得ず、原告に予定した前記追加二科目については、東京工業大学の小川教授を非常勤講師として依頼することにより対処した。

4(一)  被告大学においては、教員の研究に必要な研究設備、器具、図書等の購入の希望を聴取してその調整を図り、またその他の打合せのために、学科毎に平成元年四月二八日から同年一二月ころまでの間に、準備会議を六回にわたって開催した。

(二)  その会議において、原告は、電子計算機の機種の選定とその導入方法並びに教育研究設備の購入に予算配分等について、独自の法外な要求に固執して同僚と協調する態度を示さなかったため、同会議の進行は困難を極めた。

例えば、電子情報学科における右予算額の総計は約金四億円であった。しかし、共通設備のための費用を除くと教員(総数一二名)一名当りの予算は約三〇〇〇万円であったが、原告が執拗に要求した予算額は金一億八〇〇〇万円(書証略)に上ったため、学科会議では円満に予算配分の合意をすることができなかった。その結果、原告に対する配分予算については、学科長の訴外松澤剛雄の責任でこれを金五〇〇〇万円と決定せざるを得ないこととなったが、原告は依然としてこれに承服しなかった。

(三)  そのようなことから、訴外高橋は、平成元年夏ころ、原告がいると学科会議で協議ができないとしてその対処方を求められたため、原告に対し同僚らと協力的にやって欲しいとの忠告をしたが、効果はなかった。また、他の教員らからは「原告とは一緒に仕事は出来ない。学科会議をまとめるには原告を除外する他ない」等の苦情が出される状態となった。

5(一)  前記のとおり被告大学の緊急の必要からの二科目の担当教科の追加要請に対して、原告はこれを拒否する何等の合理的理由も無いのにその承諾をしなかったこと、及び前記のとおりの学科会議での行為等の原告の被告大学の運営に対する非協力的態度、並びに同僚教員との不協調等から、訴外高橋は、平成元年暮れころ、推薦者としての責任を感じ、原告に教授就任の辞退を説得することとした。

そして、平成二年二月一七日、その話をして内諾を得たと思ったが、その後原告に無視されたので、その勤め先であるNHKを訪れたのを始めとして、同年七月五日ころまでの間、被告大学の学長他と共に就任辞退の説得を度々試みた。

(二)  しかし却って、原告からは、平成二年八月二三日、前記のとおり弁護士を代理人として「平成二年二月一五日までに提出した予算関係書類に記載の設備を実現してその運用利用を可能とすることを要求する」旨の内容証明郵便(書証略)が被告大学に出された。

(三)  そのようなことから被告大学は、平成二年九月に前記のとおり被告大学から正式に就任辞退勧告をし、平成二年一〇月六日に原告が学校運営に非協力的であること、及び原告が執拗に要求する給与条件、設備条件の受託し難いことを理由として、原告の採用予定を取り消すことを正式に決定し、これを原告に通知した。

(四)  なお、被告大学における正式の教員採用の手続は、勤務予定期日のほぼ一カ月前ころ、被告大学の就業規則、給与規定につき異議のない旨の書面の提出を求め、その提出があった後、採用辞令を交付することにより、採用契約の成立をさせることとしていた。従って、原告と被告大学との間には、それを前提とする準備的関係が存したに過ぎない。

よって、原告に対する本件採用予定取消は正当である。

6  なお、原告は、原告と被告との間には、昭和六三年三月ころ、就任承諾書の提出によって雇用契約が締結されてこれが成立した旨主張しているが、就任承諾書は前記のとおり文部省に対する提出書類であって、原告と被告大学間の私法契約上の書類でないことは明らかである。被告大学の設立認可以前は、法人としての被告大学は成立しておらず、設立準備室長もその段階で正式な教員予定者との雇用契約等を締結して成立させる権限を有してはいなかった。従って、被告大学とその予定者に対する関係は一種の採用予約の段階であった。

(当裁判所の判断)

一  事案の概要に記載の各事実は、当事者間に争いがない。

二  成立に争いがない(証拠略)によれば、被告大学の設立準備室の開設の事情及び大学新設のための手続等については、被告大学の主張1、2(一)ないし(三)記載の各事実が認められ、そして、原告が被告大学の教員就任予定者として決定され、その担当科目等も予定され被告大学は原告から第二次就任承諾書までの提出を受けたが、その後の状況の変化によりその担当科目変更の必要が生じたことから原告に対して第三次就任承諾書の提出を求めたが、その目的を果たせなかった経緯として、被告の主張3(一)ないし(七)に記載の各事実を認めることができる。

また、前掲各証拠によれば、被告大学においてはその設立準備の一環として、教員の研究に必要な研究設備、器具、図書等の購入の希望を聴取してその調整を図り、またその他の打合せのために、学科毎に学科会議の名称で会議を開催していたが、その会議における原告の言動等については、被告の主張4(一)ないし(三)に各記載の事実が、並びにその後の原告と被告大学との紛争の経緯等については被告の主張5(一)ないし(三)記載の各事実を認めることができる。

三  以上判示の事実関係によれば、原告と被告大学との間には、昭和六三年三月ころ、文部省の設立認可がおりて被告大学が設立されること、原告がその経歴、業績等から被告大学の専任教員に相応しいものと文部省から認められ、かつ、原告がNHKを退職すること、原告が被告大学の教授としての就業規則等の所定の勤務条件を承諾することを各停止条件とし、原告の就任の時期を平成二年四月一日とする始期付きの教員採用予定契約が締結されたものと認められる。

しかしその後の右始期に至るまでの期間において、原告の言動、なかんずく私立大学としての被告大学の運営ないし教育カリキュラムの編成等に対する正当な理由に基かない非協力な態度、及び同僚となるべき教員との融和を欠く態度、被告大学当局に対する給与関係事項及び設備等についての非常識な要求の固執等が存したことから、被告大学が当初知ることができなかった原告が被告大学の専任教員(教授)としての不適格性が明らかになったことを理由として、前記教員採用予定契約を撤回したものと認めることができ、被告大学の右措置は、已むを得ないものであったと判断される。

従って、これが被告大学の人事権の濫用に当たるものであるとは判断しえないし、前記判示のその経過において被告大学が原告に対する名誉毀損を含む何らかの不法行為が存したことも認められない。

四  よって、以上によればその余の点につき判断するまでもなく、原告の本件請求は理由がないのでこれをすべて棄却することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法八九条に則って、主文のとおり判決する。

(裁判官 廣田民生)

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